幼児期に家庭でできる支援について

 「発達性読み書き障害」いわゆる「ディスレクシア」は、就学後に明確に診断がおりる場合がほとんどです。学習障害の中核をなす「読み書き」に関する障害は、小学校の学習場面等で、本人の自己肯定感を低めてしまう例があり、懸念されています。

 就学を目前にひかえ、お子さんに文字認知がすすまず「平仮名が読めない・書けない」状況がある場合、家庭ではどのような支援をすれば良いのでしょうか。平仮名が全く読めない場合でも、年長児以降であれば、自分の名前の平仮名は記憶している場合が多いですね。私の場合は「大島光代」ですから、「お」「し」「ま」「み」「つ」「よ」の平仮名については、ほかの平仮名と区別し読める状況にあると仮定しましょう。この平仮名を使ったカードを手作りして、一緒に遊びます。

最初は2文字の言葉で始めましょう。

「おり」「しか」「まき」「みる」「つき」「よる」の文字カードと絵カードを作ります(自由に考えてくださいね)。これをトランプの神経衰弱ゲームと同じ要領で、文字と絵の「カード合わせ」をして遊びます。1対のカードをめくって合わせることができたら、文字を読みます。最初は文字が読めなくても絵カードを見れば、ことばが言えます。そしてゲームの「がんばりカード」に獲得したカードの文字を書き込みます(最初は、「がんばりカード」に文字は書かずに〇を描いて後で得点の数字をかいてみましょう。点線で下がきしてあげるとなぞって数字をかくことができます)。

遊びに慣れてきたら、

〇ではなく獲得した文字カードを見ながら「がんばりカード」に文字を視写します。「がんばりカード」には、マスを大きくしてマスの中に破線の十字を入れるなどの書きやすい工夫を施しておきます。縦書きが良いと思います。2文字の言葉から、自分の名前以外の「り」「か」「き」「る」の新たな平仮名を覚えることができれば、お子さんも嬉しいですね。何度も遊んで、読めるようになってきたら、「り」「か」「き」「る」で始まる新たなことばのカードを少しずつ増やしていきます。

絵本の読み聞かせ

 また、言語力の向上には、絵本の読み聞かせが重要です。絵本のお話の世界を楽しみながら、聞いてお話を理解する力を伸ばし、語彙(理解していて使える言葉)を増やすことができるからです。何度も読んでもらった絵本は、お話の文章を覚えているお子さんも多いことでしょう。平仮名がある程度読めるなら、一文ずつ交替しながら、簡単な文章を読む機会を設け、少しくらい読み誤っていても一緒に絵本を読み合う楽しさを共有してみるのも良いと思います。「視覚―音韻」の対連合学習によって、文字と音韻を結びつけていきましょう。絵本の絵を読む(絵をみながら、分かることや感じることを話し合う)ことも楽しいですよ。幼小接続期にこのような遊びを通して豊かなことばを育み、無理なく文字認知をすすめていくことができると良いと思います。

 私は聴覚障害児教育に長らく携わってきました。「遊びながら苦手なことを軽減する」試みは、聴覚障害幼児への教育で心がけてきたことです。今は、大学で障害児の言語獲得のためのプログラム開発や障害児向けの教材開発、ディスレクシアの前駆症状の研究を行っています。潜在的には様々な障害児や障害とは言えなくても何らかの困難を抱えている幼児が在籍している幼児教育施設において、楽しく遊びながら将来の困難を軽減するユニバーサルデザインの保育・教育が展開されることを目指し、幼稚園や保育園の協力を得ながら「ことば・こころ・はぐくみ」プロジェクトを展開しています。ディスレクシアが疑われる幼児の早期支援を実現したいと考えています。

大島 光代

名古屋学芸大学 ヒューマンケア学部 子どもケア学科 教授 博士(教育学)・公認心理師・特別支援教育士(S.E.N.S)SV