合理的配慮について

 困ったことの対処方法として「合理的配慮」を考えてみましょう。
合理的配慮は、障害者の権利条約に定められ、同条約を批准した日本では国内法を制定し、合理的配慮を提供しないことも差別とされています。

 合理的配慮は、2006年に国連で採択された、「障害者権利条約(障害者の権利に関する条約)」の条文に盛り込まれた考えで、日本は国内法を整えて(「障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」)、2014年批准しました。国及び地方自治体では義務とされ(民間事業者は努力義務)、合理的配慮を提供しないことも差別とされました。

 2021年の第204回通常国会において改正障害者差別解消法が成立し、それまで努力義務だった民間事業者においても合理的配慮が法的義務化され、公布から3年以内に施行されます。

 合理的配慮は我儘ととらえる人もいるようです。また、配慮がなぜ義務なのか。これについては、この概念の和訳で「reasonable accomodation」の「accomodation」を外務省条約が「配慮」と訳したことが日本では誤解を生む原因の一つになっているのではないでしょうか。「配慮」ではなく「調整」と訳したら印象は変わります。

 合理的配慮は、決して障害者のために配慮してやるというものではなく、社会的障壁によって生まれた機会の不平等を正すための調整です。この社会的障壁の中には、事物や制度だけでなく、慣行や観念その他一切のものが含まれます。

合理的配慮の決定方法・提供について

 合理的配慮(お子さんに合った適切な支援)の内容は、学校側と本人・親御さんの話合いによって決められます。「個別の教育支援計画」、「個別の指導計画」にも掲載されて、学年が変わっても、進学先でも引き継ぎをされていきます。

①個別の教育支援計画

  • 障害者基本計画に基づく「個別の支援計画」(厚生労働省)の一部で、幼児期から学校卒業までの支援計画。
  • 「個別の教育支援計画」は、障害のある幼児児童生徒一人一人のニーズを把握し、長期的な視点で乳幼児期から学校卒業後まで一貫して的確な支援を行うことを目的として策定されるもの
  • 地域で生活する一人一人の支援を保護者と学校、福祉、医療、労働等の各機関が連携して効果的に実施する指標であり、ツール(道具)である。
  • 5年間保存されることが望ましい。(文部科学省より)

②個別の指導計画の作成の留意点

  • 診断の有無にかかわらす、本人の困難さに応じて特別な指導が必要な時に作成する。
  • 本人・保護者も参画すること。
  • 関係諸機関とも連携すること。
  • 合理的配慮も記載。
  • 必ず、見直し(評価)をして改善し、計画しなおし実践。
    (P(Plan計画)D(Do実践)C(Check評価)A(Action改善)サイクルによる改善を行う。
  • 懇談会の機会を利用。

個別の教育支援計画の作成について

  • 特別支援学級……全員について作成・活用
  • 通級による指導…全員について作成・活用
  • 通常の学級………作成・活用に努める

*作成・活用に努めるとは、可能な限り作成することを意味している。作成しても作成しなくてもよいということではないことに留意する。(熊本県教育委員会の資料)

ディスレクシア協会名古屋会員と検査を受けた家族から情報
実施された「合理的配慮」について

合理的配慮は、本人・保護者の意向をふまえて各学校の設置者や各学校が個別に判断し、合意形成が必要です。ここに挙げてある事例がすべて実施されるとは限りません。

事例1(公立小学校)

  • 連絡ノートの記述が困難なためデジタルカメラで撮影。
  • 紙の辞書が読みにくいため、デジタル辞書を通級で使用する。
  • 色覚異常があるため、できるだけ赤や青色のチョークは使用しないようにする。
  • マス目のあるノートを常時使用許可してもらう。
  • 宿題の量の調整、内容の変更。

事例2(小学校・中学校)

  • 学力試験時、読み上げ支援をしてもらう。
  • 別室で試験を受け、読めない漢字を監督者に教えてもらう。
  • ルビ付きの問題用紙使用。
  • 試験問題用紙二部使用。(長文を読み、解答を書きこむためにテスト用紙をひっくり返して解答欄に書こうとすると読んだ内容を忘れてしますため)
  • 用紙の拡大コピーと別室受験。
  • 数学は、問題用紙と解答用紙一体型。
  • ひらがな回答を認めてもらう。
  • 英語の単語テスト、定期テストで口頭回答を認めてもらう。

事例3(公立中学校)

  • 宿題の内容変更してもらう。何度も繰り返して書かなければならないものは時間がかかりすぎるが、その割に練習効果がないため不適切と判断してのことである。

事例4(公立中学校)

  • 全ての科目でタブレットでの授業を受講可能になり、提出物はタブレットに打ち込んだ物をプリントアウトして提出する、もしくは、校内でのスカイメールにて先生にメールを送り先生がプリントアウトする。(初めて通常級でタブレットを使って授業を受けた時はクラスの子に何故か?と他の子たちに言われたが、自分で説明できたようで、それ以降は誰も何も言ってこないと安心しているようである)
  • テストもタブレットで受けれるように、業者に試験テストのデータをそのままもらえるかどうかなどを学校側が確認中だというように本人を通して聞いている。

事例5(公立中学校)

  • 中間・期末テストを別室で時間延長(1科目50分×1.3の65分)。ご本人が、理科も英語も8割ぐらい解けた。この配慮がないと、半分も解けないとのことである。
  • 問題用紙の拡大コピーと、数学、理科は計算用紙をもらっている。計算用紙があると、大きく書けるので字が書きやすく間違いが減らせる。問題数が多く、問題の文章が長い、資料が多い国語、社会、理科は、読み上げの支援を受けている。何より、本人がやれただけ点数に反映されることで気持ちが上向きになれている。努力が報われていると、実感している。先生もクラスの生徒も、理由を知っているので、それで何かいうこともない。配慮のおかげで、点数もアップし解ける範囲も8割から10割になっている。配慮がなければ、得意の社会でも半分も解く時間がない。

事例6(公立中学校)

  • クラスで、宿題をやってこない子は、給食のおかわりができないというルールがあった。合理的配慮で、宿題を減らしてもらったり教科によっては出さなくてもいいものもあったため、宿題を、係の生徒が、ノートやプリントを開いた状態で集めていたので、出していなかったり、少ししかやっていない状態が、係の生徒にわかってしまうため、給食のおかわりができなくなってしまった。そこで、先生に相談すると、ノートは、閉じて出すのもオッケー、プリントは、ノートに挟んで閉じて出すのもあり、全ての生徒にそのやり方を認めることにしてくださった。先生方にしてみれば、宿題をチェックするのに、ノートを開くという手間が増えるわけであるが、先生の配慮のお蔭で、給食のおかわりができるようになった。子どもにとっては、大事なことであった。

事例7(公立高等学校)

  • 授業の板書の内容をプリントにしてもらう
  • テスト週間中に校内でテスト勉強をさせ、質問に応じたり内容理解や進度などを確認しながらテストを安心してのぞめるようにする。
  • ロイロノート等のITCを活用する。
  • 化学のテスト対策プリントを、ワードのデータでもらう。

<合理的配慮で受験をされた事例について>

(当発達性ディスレクシア支援センターで検査をお取りしたお子さん)

 中・高で支援を受けていらっしゃったお子さんのお母様が下記のお話をしてくださいました。配慮の内容というよりも、先生方が、わが子がやりやすいように一所懸命に考え工夫してくださったという、そのことがわが子や私にとってのとても大きな支えになった、というふうに考えています。

<大学受験における合理的配慮>
  • 2022年、私立大学に合格。自閉症スペクトラムと発達性読み書き障害
  • 大学入試テストセンターの共通テスト、「マークシート解答試験時間延長1.3倍」
  • 共通テスト利用で私立大学に合格
<高校受験における合理的配慮>
  • 2019年、愛知県私立高校合格。発達性読み書き障害、「拡大コピーと別室受験」
  • 2021年、岐阜県立高校合格。発達性書字障害、「別室受験で1.3倍の時間延長」
  • 2022年、愛知県立高校合格。発達性読み書き障害、「別室受験で読み上げ、時間延長」
  • 2022年、愛知県立高校合格。発達性読み書き障害、「問題文の漢字にルビ振り」
<検定試験における合理的配慮>
  • 2019年、実用数学技能検定10級合格。自閉症スペクトラムと発達性協調運動障害、「別室受験 保護者同伴」。