発達性読み書き障害に関する根拠に基づいた理解と指導、支援
LD研究.33(2).174-175.2024(一部文言に関して著者の加筆修正あり)
発達性読み書き障害に関する根拠に基づいた理解と指導、支援
宇野 彰 (NPO法人LD・Dyslexiaセンター)
1. 出現頻度と定義
発達性読み書き障害(developmental dyslexia)は、知能が正常であったとしても通常の方法では文字習得が困難である読み書きに関する障害である。就学期前後に明らかになることが多く、先天性の障害と考えられている。この障害の「読み」に関する出現頻度は英語圏ではおおむね10%以上という報告が少なくない。日本語でも、ひらがなでは0.2%、 カタカナで1.4%、漢字で6.9%と文字言語の構造の違いが、出現頻度の差となっていると解釈されている(Uno et al.2009)。英語圏では背景となる認知障害に関して音韻障害を中心に記載されており、この点も現在改訂案の議題にのぼっている。日本語では視覚認知障害が加わっている。この発達性読み書き障害はDSM-5-TRでの限局性学習症に分類 されており、暦年齢から想定される読み書きの習得度が低いことが標準化された検査によって定量的に明らかにすること が推奨されている。
2. 生物学的背景
「発達性読み書き障害」の背景に、大脳の機能障害によって生じていることに異議を唱える専門家はいないと思われる。 細胞遊走(migration)の異常仮説が有力である。胎児の大脳の中を神経細胞が移動するのだが、本来行きつくべきところに行かず途中で止まってしまうと、細胞がないはずのところに細胞が堆積し皮質が構築されたり、行きつくべき部位にはたどり着けないのでその部位の皮質の体積が通常の方よりも少なくなるという状態を呈すると考えられる。
3. 大脳の機能異常部位
その結果、大脳の機能低下部位や構造に異常が認められることにつながると考えられる。大脳機能を調べる研究は機能 的MRI(Magnetic Resonance Imaging)やPET(Positron Emission Tomography)を用いるが、構造に関しては 個々人の大脳のMRIを観察しても異常はわからないが、VBM (Voxel Based Morphology)を用いて数十人の集団を対 象に用いると判明することがある。機能と構造を調べた結果が一致している報告としてSiokら(2004, 2008)は、 中国語話者の発達性ディスレクシア例を対象にfMRIおよび、VBMを用いて双方において左中前頭回に問題があること を示した。しかし、その後発達性ディスレクシアと左中前頭回の関与について明確に示した研究は報告されていない。一 方、Paulesuら (2001 )はPETとVBMを用いて測定したところ、音韻処理に関連する弓状束の接続や左側頭‐後頭 結合部近似の場所での灰白質の量に問題があることが示された(Silaniら2005)。このように、構造と機能とのデータが 一致した研究であっても、結果が異なっている状態は、集団が多様であることに加えて、言語の特徴の違いなのか、手法の違いなのかについては、まだ見解が一致していない。
4. 文字習得に関連する認知能力
上述の大脳機能障害により、認知障害が生じると考えられる。発達性ディスレクシア97名に関して音韻(PA)、視覚認知(VC)、自動化(AT)という3種類の認知障害の種類別に下位分類したところ、PA障害のみ18名(16.4%)、 VC障害のみ11名(10%)、AT障害のみ9名(8.2%)、PA+VCの複合障害21名(19.1%)、PA+ATの複合障害 21名(19.1%)、VC+ATの複合障害5名(4.5%)、PA+VC+ATの複合障害を示した症例は25名(22.7%)であっ た(宇野ら、2018)。65%以上は複数の認知障害の組み合わせで生じており、音韻障害のみが背景と思われる群は 15.5%であり、音韻障害のない群は22.6%とむしろ音韻障害を認めない発達性ディスレクシア例が多いと報告されている。ひらがなを習得するために最も重要な認知能力は1980年代より音韻能力とされてきたが、研究手法に問題があるために、現代では信頼性が低いと考えられる。世界的に、規則性の高い文字言語では音韻能力の関与が不規則な言語に 比べて貢献度が低いと報告されている内容と同傾向を示していた。一方、漢字に関しては音読と書字では関連する認知能 力は異なっており、音読では語彙力が次に音韻能力が、書字では視覚認知能力が大きく関与していた。
5. 読み書きの習得度を測定する検査と検査結果に基づく合理的配慮
自閉スペクトラム症やADHDの診断評価と大きく異なる点の一つとして、客観的数量的な検査が必要である点が挙げられる。DSM-Ⅴ-TRにおいても、標準化された定量的な評価を実施することが推奨されている。標準化されていて、ひ らがな、カタカナ、漢字の3表記別に音読と書字の評価ができる検査、および高校や大学などの受験生に対応できる検査 は2025年7月現在現在STRAW-R(標準読み書きスクリーニング検査)だけである。このSTRAW-Rでの検査結果を もとに、合理的配慮を実施する。例えば、速読検査において、音読所要時間が長ければ、試験時間の延長、ひらがな、カタカナは完璧なのに漢字の習得が困難な場合には、試験問題の漢字部分へのルビ振り、解答を感じで書かずとも減点しない、などである。
6. よくある誤った理解
発達性ディスレクシアは上述のように説明されるので、下記のような理解は誤っているので注意を要する。すなわち、 形態の整わない文字を書く(習字のコンクールで入賞する児童もいる。協調運動障害がある場合や、整えて書こうという意思が十分でない場合に多い)。目の問題で起こる(ことはない)。字が浮き上がって見えたり、滲んで見えたり、動く (典型的な発達性読み書き障害ではそのような訴えはない)。ビジョントレーニングでよくなる(根拠はない)。大きくすればよめる(わけではない)。読みやすいフォントタイプがある(主観的にはあるが客観的に信頼できる効果を出した論文はまだない)。色付き透明フィルターでは読みやすくなる(わけではない)などである。


